この記事を書いた人 トリッパー編集部
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夏に行くならどっち?日本の北と南の世界遺産
記事作成日: 2022-07-11
日本には数多くの世界遺産があります。それが旅行の主な目的でなくても、周辺地域の観光の途中で世界遺産に立ち寄ることもあるでしょう。
しかし、青森や北海道、九州や沖縄といった地域になると、そうした形で世界遺産と出会う可能性は少なくなってきます。
いつもより行動範囲を広げやすい夏の旅行は、そんな北や南の世界遺産に触れるチャンスです。今年は、眩しい日差しを浴びながらのマリンレジャーや、涼しく爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込みながらの散策など、夏ならではの楽しさをセットにした世界遺産観光を考えてみてはいかがでしょう。
目次
日本の北側にある世界遺産
知床
美しい光景を作り出す「知床(しれとこ)」の流氷。その冷たさは海中の環境に影響を与え、さまざまな生き物の命を支えています。これは海だけに限ったことではありません。食物連鎖の中で、その命は陸上の生き物にもつながっていきます。
見事な景観に圧倒され、つい忘れそうになってしまいますが、世界遺産として評価されているのは、絶滅が心配されるほど貴重なものを含む多彩な生き物が集まり、絶妙なバランスを保ちながら独特の生態系を形作っているということです。
「知床五湖」を巡る散策や、温水の流れる「カムイワッカ湯の滝」など、人気のスポットはたくさんありますが、この生物に関することを意識していれば、知床全体の感じ方が変わってくるはずです。
冬には流氷が見られる知床半島も、夏はそれなりに気温が上がります。しかし、近年の8月のデータを見ると、最高気温の平均値は25度以下です。時には30度近くになる日もあるものの、熱気渦巻く大都市に比べれば、はるかにすごしやすい環境と言えるでしょう。
白神山地
青森県と秋田県をまたぐ「白神(しらかみ)山地」には、大きなブナ林が広がっています。ブナは国内全体、たとえば鹿児島の方でさえ見られる木ですが、白神山地のブナ林には、「人の手がほとんど入っておらず、昔のままの姿を保っている」という大きな特徴があります。過去の調査では約8000年前の時点でもブナ林が存在していたという結論が出ており、その歴史の長さに驚かされます。
世界最大級とされる広大なブナの原生林を山頂から見下ろす登山コースは、片道5~6時間もかかる本格的なもの。夏の旅行では、1~2時間でブナ林を満喫できる「世界遺産の径 ブナ林散策道(※1周約2km)」もおすすめです。
世界遺産緩衝地域内の「暗門滝(あんもんのたき)」も、人気の高いスポットです。こちらはそれぞれ高さ26m・37m・42mの三つの滝からなり、遊歩道の入口側に最も近い「第三の滝」から「第一の滝」へ、先に進むごとに高くなっていきます。静かなブナ林と水しぶきの舞う滝の組み合わせは、都会では得られない涼しさを与えてくれるでしょう。
北海道・北東北の縄文遺跡群
2021年に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」は、北海道・青森県・岩手県・秋田県の遺跡からなる世界遺産です。さまざまな世界遺産がある日本ですが、発掘された遺跡だけで構成された世界遺産はこれが初となります。人の手による建築物を中心とした世界遺産とはまた違った形で歴史を感じられる、興味深い世界遺産と言えるでしょう。
遺跡の配分は北海道が5ヶ所、青森県が8ヶ所、秋田県が2ヶ所、岩手県が1ヶ所です。広大な北海道ですが、該当する遺跡は道南~道央の三つの地域(※函館市・洞爺湖周辺・千歳市)にあるため、端から端まで飛び回る必要はありません。
最も数が多い青森では、各遺跡が広い範囲に点在しています。県全体を見て回ることも可能ですし、県の中央と東側、あるいは中央と西側といったように対象を絞って、他の観光スポットを混ぜることもできます。県の東部では、もう一つの世界遺産である白神山地や、南側の秋田にある「伊勢堂岱(いせどうだい)遺跡」も視野に入ります。
他にも、青森県八戸市の「是川(これかわ)石器時代遺跡」→岩手の「御所野(ごしょの)遺跡」(※車で約50分)→秋田の「大湯(おおゆ)環状列石」(※車で約1時間)という三つの県をまたぐルートなど、観光プランはいくつも考えられます。
同じ縄文時代の遺跡でも、年代によってその様子は変わってきます。早期・前期・中期・後期・晩期がそろっている北海道や、草創期と前期~晩期の遺跡がある青森で、それを見ていくのもおもしろいかもしれません。
日本の南側にある世界遺産
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産
「潜伏キリシタン」とは学術的な用語で、江戸幕府によってキリスト教が禁じられた後も、信仰を守り続けた人々のことを指します。キリスト教徒と知られないよう、彼らは仏像への祈りを聖母マリアへの祈りの代わりとしたり、キリスト教にまつわる品を隠すことで身を守りました。その一部は明治時代の初めにキリスト教の信仰が許されてからも、そうした独特の形を維持しました。こちらは「隠れキリシタン」と呼ばれます。
一般的には隠れキリシタンという言葉でまとめられることも多いのですが、この「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は潜伏キリシタンを対象としたものになっています。
構成資産は長崎市にある国宝「大浦天主堂」や、島原の乱という悲しい歴史を持つ「原城跡」、そして五島列島など県内の各所および熊本県の天草地方に点在する潜伏キリシタンの集落です(※無人島となった野崎島は「集落跡」)。集落に住む人々が懸命に造り、守ってきた教会堂や天主堂からは、潜伏キリシタンの強い信仰心が伝わってきます。
夏の海風に吹かれながらの島巡りや、大浦天主堂を中心にした市内観光など、旅行プランを柔軟に考えられるのも魅力と言えるでしょう。
明治日本の産業革命遺産の製鉄・製鋼、造船、石炭産業
「明治日本の産業革命遺産の製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産には、岩手県の「橋野鉄鉱山」と静岡県の「韮山(にらやま)反射炉」も含まれるのですが、ここでは残りの大部分が存在する山口県と九州(※大分県と宮崎県以外の6県)に注目し、日本の南側の世界遺産として扱います。
製鉄と製鋼、造船関連、そして石炭産業という三つの分野があり、23もの資産で構成されているため、観光と組み合わせるなら1~2県ごとに見ていくのが無難でしょう。
具体的な構成資産は、福岡県の「官営八幡(やはた)製鐵所」や「三池(みいけ)炭鉱」、山口県の「萩(はぎ)反射炉」、軍艦島として知られる長崎県の「端島(はしま)炭坑」など多彩です。
施設ばかりでなく、実業家として日本の近代化を支えたトーマス・グラバーの「旧グラバー住宅」や、多くの優秀な人材を生み出した「松下村塾(しょうかそんじゅく)」のような「人」という視点からの資産も含まれており、当時の日本の躍進をさまざまな角度から知ることができるようになっています。
「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群
九州の玄関口・小倉から、海沿いに福岡へ向かう途中にある宗像(むなかた)市。「神宿る島」とされる「沖ノ島」は、その宗像と北東の対馬(つしま)を結ぶ線の中間辺りに浮かぶ島です。
この線の先にある韓国の釜山(ぷさん)と宗像地域の間で、4世紀後半から約500年間に渡って盛んに交流が行われていたことが知られています。その間、沖ノ島は交流の成功を祈る神域となっていました。その後も沖ノ島は特別な場所として守られ続け、現代に至るまで当時の姿が保たれています。
世界遺産に認定されたことで、沖ノ島への上陸制限はさらに厳しくなり、現在は研究者などの特例を除いて完全に禁止となっています。ただし、沖ノ島の「沖津宮(おきつぐう)」・手前の大島の「中津宮(なかつぐう)」・本土の「辺津宮(へつぐう)」からなる宗像大社の、中津宮と辺津宮の観光は可能です。
大島の北側には沖津宮、つまり沖ノ島を拝むための「遙拝所(ようはいしょ)」もあります。彼方に見える沖ノ島の姿はとても神秘的ですし、夏の海に面した遥拝所や味のある石段が生み出す風景にも、現代日本の一部であることを忘れさせてしまうような美しさがあります。
屋久島
「屋久島(やくしま)」は、鹿児島県の南端から60kmほど南にある島です。緑あふれる幻想的な風景は、映画の一場面を思わせます。
その要とも言える存在が、「屋久杉」と呼ばれる島内の杉です。普通の杉よりゆっくりと育つものの寿命が長く、数千年生きているものも現存する屋久杉は、観光プランの大きな柱になります。
しかし、特に有名な「縄文杉」へ向かうトレッキングの道のりは片道約11km。舗装された道路のように歩きやすい道ではないため、およそ5時間ほどかかってしまいます。体力を消耗しやすい夏の旅行では、もうすこし簡単なものが必要になるかもしれません。
たとえば、さまざまな屋久杉を見ることができる「ヤクスギランド」では、気軽に歩ける30分コースをはじめとした全部で5種類のコースから、最適なものを選ぶことができます。短時間のコースでも屋久杉の姿に圧倒されますし、最も長い210分のコースでは大きな満足感を得ることができるでしょう。
「アクティブに夏を楽しむ」という視点で考えるなら、自転車レースのイベントも開かれる、屋久島の外周道路に注目してみましょう。1周約100kmと適度な長さで、アップダウンはそれなりにあるものの、数日かけてマイペースに進んだり、一部区間のみを対象にするといった工夫で、夏の旅行でも無理せずに青い空と海を見ながらのサイクリングができます。
琉球王国のグスクおよび関連遺産群
「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」は、「御城」という漢字が当てられるグスク(※スクならば「城」)を中心とした世界遺産です。その構成資産の一覧で目を引くのは「首里城跡」ですが、こちらは沖縄の写真や映像でおなじみの復元された部分ではなく、一部城壁のように現代まで残った部分が対象となっています。
残り8ヶ所のうち、4ヶ所は同じように城跡です。なめらかな曲線を描く石垣が、独自の文化を伝えてくれます。
グスクの役割にも、一般的な城との違いが見られます。もちろん、統治や戦の拠点としても使われていたのですが、グスクには宗教的な場としての側面もありました。激しい戦いの中でもそれ以外の時でも、人々の心を支える柱であったわけです。各地の城を訪れている方も、ここではやや違った印象を受けるかもしれません。
「今帰仁(なきじん)城跡」以外の構成資産は沖縄本島の南半分にあるため、まとめて観光しやすいという長所もあります。今回のように「ビーチで遊ぶついでに見に行く」という形でも、負担は少ないでしょう。
奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島
「奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島」は、絶滅危惧種を含むさまざまな生物が暮らす、非常に貴重な地域であることが高く評価された自然遺産です。西表(いりおもて)島で発見されたイリオモテヤマネコをはじめ、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギなど、地球上から今にもその姿を消してしまいそうな生物が、この地域では平和に暮らしています。
もちろん、そうした生物だけで生態系が成立するわけはありません。他の生物を含めた自然の歯車がすべて噛み合い、この環境が維持されていることが素晴らしいのです。
この世界遺産は、名前のとおり鹿児島県奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄本島と西表島で構成され、西表島はほぼ島全体が、他の3島は一部が登録範囲となっています(※沖縄本島は北端から1/4ほど、奄美大島は中央部、徳之島は北部と中央の一部分)。
沖縄県内で、沖縄本島に次ぐ広さを誇る西表島は見応えたっぷりですし、沖縄本島では南部のグスクを絡めた観光も考えられます。奄美大島の面積も約712平方kmと大きく(※沖縄本島は約1,199平方km)、こちらもボリューム満点です。約247平方kmの徳之島も西表島より一回り狭い程度ですから、ごく小さな島というわけではありません。
沖縄には、西表島以外にも石垣(いしがき)島や宮古(みやこ)島など人気の離島がいくつもあります。そうした西表島以外の離島も含めた観光プランを作れば、島ごとの自然の違いを見ることができます。
日本の世界遺産を見に行こう!
順位 | 国名 | 世界遺産の数 |
1位 | イタリア | 58 |
2位 | 中国 | 56 |
3位 | ドイツ | 51 |
4位 | スペイン | 49 |
4位 | フランス | 49 |
6位 | インド | 40 |
7位 | メキシコ | 35 |
8位 | イギリス | 33 |
9位 | ロシア | 30 |
10位 | イラン | 26 |
順位 | 国名 | 世界遺産の数 |
11位 | 日本 | 25 |
12位 | アメリカ | 24 |
13位 | ブラジル | 23 |
14位 | オーストラリア | 20 |
14位 | カナダ | 20 |
16位 | トルコ | 19 |
17位 | ギリシャ | 18 |
18位 | ポーランド | 17 |
18位 | ポルトガル | 17 |
20位 | チェコ | 16 |
※本記事内の情報は、すべて2022年6月時点のものです。